メインコンテンツへスキップ

React React Native Zustand

Zustand vs React Query vs AsyncStorage:どこに何を置くべきか

ZustandとReact QueryとAsyncStorageの使い分けについて。3つを組み合わせてReact Nativeアプリのオフライン対応を組み立てる方法もまとめました。

いま開発しているカーテン見積もりアプリには、絶対に譲れない要件がひとつあります。電波がなくても動くこと。見積もりは現場での採寸から始まるのですが、現場は新築の建物だったり地下だったりで、電波はあてになりません。この制約のおかげで、多くのReactプロジェクトが曖昧なままにしている「どの種類のステートをどこに置くか」という問題に、正面から向き合わざるを得ませんでした。

よくある失敗は、すべてをひとつのストアに突っ込むことです。APIキャッシュもユーザー設定もフォームの状態も認証トークンも、全部同じReduxストアの中。でもこれらは性質もライフサイクルも違うステートで、それぞれに合った道具があります。Zustand、React Query、AsyncStorageはそれぞれちょうどひとつの問題をうまく解決してくれるので、境界線さえ引けば、アーキテクチャはだいたい勝手に片付きます。

ステートは3種類ある
#

ライブラリの話をする前に、自分が何を管理しているのかをはっきりさせておきましょう。

クライアントステートは、アプリのランタイムにしか存在しないデータです。UIのトグル、選択中のタブ、フォーム入力、モーダルの開閉。上流に所有者はおらず、プロセスが終われば消えます。

サーバーステートは事情が違います。所有者はサーバーで、アプリが持っているのはローカルコピーにすぎません。ユーザープロフィール、商品一覧、通知、フィード。手元のコピーは古くなりますし、再取得が必要ですし、今この瞬間に別のクライアントが別のバージョンを見ているかもしれません。

永続ステートは、再起動をまたいで残す必要があるデータです。認証トークン、オンボーディング完了フラグ、キャッシュした設定、オフライン用データ。デバイスそのものに保存されます。

たいていのアプリには3つとも存在します。そして、たいていの混乱は、3つをひとつの道具で扱おうとするところから始まります。

Zustand:クライアントステート担当
#

Zustandは余計な儀式のない小さなステートライブラリです。プロバイダーなし、ボイラープレートなし、何重にもネストしたコンテキストラッパーもなし。ストアを作ってコンポーネントで使う、覚えることはほぼそれだけです。

出番になるのは、複数のコンポーネントが同じUIステートを必要とするとき(サイドバーの開閉、アクティブなフィルター、選択中のアイテム)、APIから来ないアプリレベルのステートがあるとき(テーマ、言語、起動時に読み込むフィーチャーフラグ)、あるいはカートの計算やマルチステップのウィザードのような、本物のクライアントサイドロジックがあるときです。同期的で予測どおりに更新したいものは、だいたいここに入ります。

基本のストアはこんな形です。

import { create } from 'zustand'

interface AppState {
  theme: 'light' | 'dark'
  sidebarOpen: boolean
  selectedFilters: string[]
  setTheme: (theme: 'light' | 'dark') => void
  toggleSidebar: () => void
  setFilters: (filters: string[]) => void
}

const useAppStore = create<AppState>((set) => ({
  theme: 'light',
  sidebarOpen: false,
  selectedFilters: [],
  setTheme: (theme) => set({ theme }),
  toggleSidebar: () => set((state) => ({ sidebarOpen: !state.sidebarOpen })),
  setFilters: (filters) => set({ selectedFilters: filters }),
}))

コンポーネント側はこうなります。

function Sidebar() {
  const { sidebarOpen, toggleSidebar } = useAppStore()

  if (!sidebarOpen) return null

  return (
    <div className="sidebar">
      <button onClick={toggleSidebar}>Close</button>
      {/* sidebar content */}
    </div>
  )
}

Zustandに入れないもの
#

まずAPIレスポンス。APIコールのたびにZustandストアへ書き込み、コンポーネントはクエリの代わりにストアを読む、というプロジェクトを見たことがあります。行き着く先は、キャッシュ無効化・ローディング状態・エラーハンドリング・再取得・ページネーションの手作り再実装です。それこそReact Queryが肩代わりしてくれる仕事なんですよね。

もうひとつは、再起動後も残したいデータ。Zustandのステートはメモリ上にあるので、アプリを閉じれば消えます。persistミドルウェアでAsyncStorageに橋渡しすることはできますが(後述します)、それは意識的にやる判断であって、癖でやることではありません。

React Query:サーバーステート担当
#

React Query(今はTanStack Queryですが)は、リモートデータのライフサイクル全体を面倒見てくれます。取得、キャッシュ、同期、更新、ガベージコレクション。発想の転換ポイントは、サーバーのデータを「自分が所有するステート」ではなく「新鮮に保つべきキャッシュ」として扱うことです。所有者はサーバーで、こちらはコピーを預かっているだけです。

私はAPI経由のデータには全部これを使っています。同じエンドポイントを複数コンポーネントが参照するデータ(リクエストは自動で重複排除されます)、ページネーションや無限スクロール、アプリに戻ってきたときにバックグラウンドで再取得したいデータ、UIを即座に変えてサーバーに拒否されたら巻き戻す楽観的更新。ぜんぶ守備範囲です。

import { useQuery, useMutation, useQueryClient } from '@tanstack/react-query'

function useUser(userId: string) {
  return useQuery({
    queryKey: ['user', userId],
    queryFn: () => fetch(`/api/users/${userId}`).then(res => res.json()),
    staleTime: 5 * 60 * 1000, // 5分間はフレッシュとみなす
  })
}

function useUpdateUser() {
  const queryClient = useQueryClient()

  return useMutation({
    mutationFn: (data: { id: string; name: string }) =>
      fetch(`/api/users/${data.id}`, {
        method: 'PATCH',
        body: JSON.stringify(data),
      }),
    onSuccess: (_, variables) => {
      queryClient.invalidateQueries({ queryKey: ['user', variables.id] })
    },
  })
}

コンポーネント側です。

function UserProfile({ userId }: { userId: string }) {
  const { data: user, isLoading, error } = useUser(userId)
  const updateUser = useUpdateUser()

  if (isLoading) return <Spinner />
  if (error) return <ErrorMessage error={error} />

  return (
    <div>
      <h1>{user.name}</h1>
      <button
        onClick={() => updateUser.mutate({ id: userId, name: 'New Name' })}
        disabled={updateUser.isPending}
      >
        Update Name
      </button>
    </div>
  )
}

書かずに済むもの
#

サーバーデータはここに置くべきだと私が言い張る理由は、タダでついてくる仕組みの多さです。5つのコンポーネントが同じユーザーを要求しても、ネットワークリクエストは1回だけ。ウィンドウがフォーカスを取り戻したり回線が復活したりすれば再取得してくれます。古いキャッシュは勝手にガベージコレクションされます。どのクエリも isLoadingisErrordata などを返してくれるので、ローディングやエラーのUIをいちいち手作りしなくて済みます。失敗したリクエストは指数バックオフでリトライされ、ロールバック付きの楽観的更新も組み込みパターンとして用意されています。自前で作れば丸一日仕事です。

向いていないもの
#

クライアントだけのステートには不向きです。サーバーを経由しないデータにReact Queryを使っても、儀式が増えるだけ。モーダルの開閉にキャッシュ無効化や再取得間隔は要りません。

永続化レイヤーでもありません。キャッシュはメモリ上にあるので、再起動すれば空になって再取得が走ります。キャッシュの永続化はできますし、React Nativeではやるべきです(後半のオフラインの節で扱います)。それでも、正となるデータは常にサーバー側にあります。

AsyncStorage:再起動を生き延びるもの担当
#

AsyncStorageはReact Nativeのキーバリューストレージです。Webでの相当品は localStorage(同期)か IndexedDB(非同期で高機能)。考え方はどちらも同じで、デバイスに書き込むことでプロセスより長生きするデータ、ということです。

プラットフォームごとの中身
#

@react-native-async-storage/async-storage を使っていればAPIはひとつですが、中身はプラットフォームごとにかなり違います。

Androidでは RKStorage 経由のSQLiteで、アプリの内部ストレージディレクトリ内のデータベースに保存されます。高速で信頼でき、サンドボックス化されているので他のアプリからは触れません。ただし、下の表にあるデフォルトのサイズ上限には注意してください。

iOSでは、小さな値は NSUserDefaults、大きな値はシリアライズされたファイルに入ります。こちらもアプリのコンテナ内にサンドボックス化されています。Appleは NSUserDefaults にハードリミットを設けていませんが、個々の値は数百KB以下に抑えるのが常識的な線です。それを超えるようなら、そもそもWatermelonDBやRealmのような本物のデータベースを検討すべきでしょう。

Web(React Native WebやExpo Web)では localStorage にフォールバックします。上限はブラウザ次第で5〜10MB程度。Web専用のReactアプリなら localStorage を直接使うか、大きめのデータセットには idb-keyval のようなラッパー経由で IndexedDB を使えば十分です。

プラットフォームバックエンドサイズ上限保存場所
AndroidSQLite (RKStorage)デフォルト約6 MB(変更可)アプリの内部ストレージ
iOSNSUserDefaults / ファイルハードリミットなし(値は小さく保つ)アプリのサンドボックスコンテナ
WeblocalStorage約5〜10 MB(ブラウザ依存)ブラウザのオリジンストレージ

私が入れているもの
#

認証トークンとセッションデータ、残しておきたいユーザー設定(言語、テーマ、通知設定)、オンボーディング完了フラグ、オフライン用のキャッシュデータ。要するに「再起動を生き延びる必要のある小さなキーバリュー」で、カテゴリとしてはそれがすべてです。

APIはストレージとして考えられる限り素直な形をしています。

import AsyncStorage from '@react-native-async-storage/async-storage'

// 値を保存する
await AsyncStorage.setItem('auth_token', token)

// 値を読み取る
const token = await AsyncStorage.getItem('auth_token')

// オブジェクトを保存する(シリアライズが必要)
await AsyncStorage.setItem('user_preferences', JSON.stringify({
  theme: 'dark',
  language: 'en',
  notifications: true,
}))

// オブジェクトを読み取る
const prefs = JSON.parse(await AsyncStorage.getItem('user_preferences') ?? '{}')

// 値を削除する
await AsyncStorage.removeItem('auth_token')

// 全部消す(注意して使うこと)
await AsyncStorage.clear()

Webでの相当品
#

Web専用のReactアプリにAsyncStorageは不要です。単純なキーバリューなら localStorage で足ります。

// 同期的 - メインスレッドをブロックするが、小さなデータなら問題ない
localStorage.setItem('theme', 'dark')
const theme = localStorage.getItem('theme')

// 構造化データの場合
localStorage.setItem('user', JSON.stringify({ name: 'Jared', role: 'admin' }))
const user = JSON.parse(localStorage.getItem('user') ?? '{}')

大きなデータセットには IndexedDB を使います。

import { get, set, del } from 'idb-keyval'

await set('large-dataset', hugeArray)
const data = await get('large-dataset')
await del('large-dataset')

向いていないもの
#

キーバリューストアであってデータベースではありません。リレーショナルデータ、数千件の配列、インデックスやクエリが必要なものは、SQLite(expo-sqlite 経由)、WatermelonDB、Realmの領分です。

セキュアストレージでもありません。root化・脱獄されたデバイスではAsyncStorageの中身は読めてしまいます。機密トークンは expo-secure-storereact-native-keychain に入れてください。

3つの組み合わせ方
#

実際のアプリでは3つを同時に使います。私がよく使うパターンをいくつか。

認証フロー
#

// 1. AsyncStorage: 認証トークンを永続化する
import AsyncStorage from '@react-native-async-storage/async-storage'

async function saveToken(token: string) {
  await AsyncStorage.setItem('auth_token', token)
}

async function getToken(): Promise<string | null> {
  return AsyncStorage.getItem('auth_token')
}

// 2. Zustand: メモリ上で認証ステートを追跡する
import { create } from 'zustand'

interface AuthState {
  isAuthenticated: boolean
  token: string | null
  setAuth: (token: string) => void
  clearAuth: () => void
}

const useAuthStore = create<AuthState>((set) => ({
  isAuthenticated: false,
  token: null,
  setAuth: (token) => set({ isAuthenticated: true, token }),
  clearAuth: () => set({ isAuthenticated: false, token: null }),
}))

// 3. React Query: トークンを使ってユーザープロフィールを取得する
function useCurrentUser() {
  const token = useAuthStore((s) => s.token)

  return useQuery({
    queryKey: ['currentUser'],
    queryFn: () =>
      fetch('/api/me', {
        headers: { Authorization: `Bearer ${token}` },
      }).then(res => res.json()),
    enabled: !!token, // トークンがあるときだけ取得する
  })
}

起動時はこうです。

// アプリの初期化
async function initializeApp() {
  const token = await getToken() // AsyncStorageから読み取る
  if (token) {
    useAuthStore.getState().setAuth(token) // 高速アクセスのためにZustandに入れる
    // React Queryが自動的にユーザープロフィールを取得する
  }
}

AsyncStorageがトークンを再起動越しに保持し、Zustandがどこからでも安く読めるようにし、React Queryはトークンが揃った瞬間にプロフィールを取りに行く。それぞれが得意なことをひとつずつやっています。

再起動しても消えないテーマ設定
#

import { create } from 'zustand'
import { persist, createJSONStorage } from 'zustand/middleware'
import AsyncStorage from '@react-native-async-storage/async-storage'

// Zustandの永続化ミドルウェアがギャップを埋める
const useThemeStore = create(
  persist(
    (set) => ({
      theme: 'light' as 'light' | 'dark',
      toggleTheme: () =>
        set((state) => ({
          theme: state.theme === 'light' ? 'dark' : 'light',
        })),
    }),
    {
      name: 'theme-storage',
      storage: createJSONStorage(() => AsyncStorage), // React Native
      // storage: createJSONStorage(() => localStorage), // Web
    }
  )
)

ランタイムのステートはZustandが管理し、persistミドルウェアが裏でAsyncStorage(WebならlocalStorage)に同期します。コンポーネントは永続化レイヤーの存在を知りませんし、知る必要もありません。

オフラインファーストな読み取り
#

import { useQuery } from '@tanstack/react-query'
import AsyncStorage from '@react-native-async-storage/async-storage'

function useProducts() {
  return useQuery({
    queryKey: ['products'],
    queryFn: async () => {
      try {
        const res = await fetch('/api/products')
        const data = await res.json()

        // オフライン用にAsyncStorageにキャッシュする
        await AsyncStorage.setItem('cached_products', JSON.stringify(data))

        return data
      } catch (error) {
        // ネットワーク失敗 - キャッシュデータを試す
        const cached = await AsyncStorage.getItem('cached_products')
        if (cached) return JSON.parse(cached)
        throw error
      }
    },
    staleTime: 10 * 60 * 1000,
  })
}

取得とインメモリキャッシュはReact Query、ネットワークがないときのフォールバックはAsyncStorage、という分担です。

オフラインモードを順番に組む
#

ここが私にとっての本題です。一般論としても、ユーザーは地下鉄やエレベーターや飛行機の中でアプリを開くものですが、私の場合はもっと切実で、見積もりは現場で書くものなのに、現場に電波があるとは限りません。地下でスピナーが回りっぱなしというのは、見積もりを1件落とすということです。

うれしいことに、この3つのライブラリだけで、重量級フレームワークに頼らず、かなりしっかりしたオフライン構成が組めます。

ステップ1:オフラインかどうかを知る
#

まず、デバイスがネットワークの状態をアプリに伝え、アプリがそれをどこかに覚えておく必要があります。イベントは @react-native-community/netinfo が発行してくれるので、小さなZustandストアに入れて、どこからでも読めるようにします。

import { create } from 'zustand'
import NetInfo from '@react-native-community/netinfo'

interface NetworkState {
  isOnline: boolean
  setOnline: (online: boolean) => void
}

const useNetworkStore = create<NetworkState>((set) => ({
  isOnline: true,
  setOnline: (online) => set({ isOnline: online }),
}))

// アプリ起動時に一度だけ購読する
NetInfo.addEventListener((state) => {
  useNetworkStore.getState().setOnline(state.isConnected ?? false)
})

これで、どのコンポーネントでも useNetworkStore((s) => s.isOnline) を見て、オフラインバナーを出す、送信ボタンを無効にする、「オンラインに戻ったら同期されます」と説明する、といったことができます。

ステップ2:React Queryにオフラインを教える
#

React Queryには networkMode という、オフライン時のクエリとミューテーションの挙動を制御する仕組みが最初から入っています。

import { QueryClient } from '@tanstack/react-query'

const queryClient = new QueryClient({
  defaultOptions: {
    queries: {
      networkMode: 'offlineFirst',
      // キャッシュデータを即座に返し、オンライン時にバックグラウンドで再取得
      staleTime: 5 * 60 * 1000,
      gcTime: 24 * 60 * 60 * 1000, // キャッシュを24時間保持
      retry: (failureCount, error) => {
        // オフラインならリトライしない - また失敗するだけ
        if (!useNetworkStore.getState().isOnline) return false
        return failureCount < 3
      },
    },
    mutations: {
      networkMode: 'offlineFirst',
    },
  },
})

3つのモードはこうなっています。

モード挙動
online(デフォルト)オンライン時だけクエリを実行し、オフライン中は一時停止する。
alwaysネットワークの状態に関係なくクエリを実行する。失敗は queryFn 側で処理する。
offlineFirst(キャッシュデータのために)一度だけクエリを実行し、再取得はオンラインに戻るまで一時停止する。

ほとんどのモバイルアプリでは offlineFirst が正解です。キャッシュデータが即座に表示され、新しいデータはネットワークが許すときに届きます。

ステップ3:クエリキャッシュを永続化する
#

素の状態ではキャッシュはメモリだけなので、再起動すればそこら中スピナーだらけになります。オフラインモードでは、キャッシュをAsyncStorageに永続化します。

import { QueryClient } from '@tanstack/react-query'
import { PersistQueryClientProvider } from '@tanstack/react-query-persist-client'
import { createAsyncStoragePersister } from '@tanstack/query-async-storage-persister'
import AsyncStorage from '@react-native-async-storage/async-storage'

const queryClient = new QueryClient({
  defaultOptions: {
    queries: {
      gcTime: 24 * 60 * 60 * 1000, // 24時間 - maxAge以上でなければならない
    },
  },
})

const asyncStoragePersister = createAsyncStoragePersister({
  storage: AsyncStorage,
  key: 'react-query-cache',
})

// Appコンポーネントで
function App() {
  return (
    <PersistQueryClientProvider
      client={queryClient}
      persistOptions={{
        persister: asyncStoragePersister,
        maxAge: 24 * 60 * 60 * 1000, // 24時間より古いデータは復元しない
        dehydrateOptions: {
          shouldDehydrateQuery: (query) => {
            // 成功したクエリだけを永続化する
            return query.state.status === 'success'
          },
        },
      }}
    >
      <YourApp />
    </PersistQueryClientProvider>
  )
}

これで、電波のない場所でアプリを開いても、真っ白な画面ではなく前回取得したデータがすぐに表示されます。回線が戻れば、React Queryが裏で静かに再取得してくれます。

ステップ4:オフライン中の書き込みをキューに積む
#

読み取りは簡単な方の半分です。おもしろくなるのは書き込みの方で、電波のないところで追加されたコメントや送信された注文、編集されたプロフィールは、キューに積んでおいて後で再実行しなければなりません。

React Queryの答えは、useMutationonMutate での楽観的更新です。

import { useMutation, useQueryClient } from '@tanstack/react-query'
import AsyncStorage from '@react-native-async-storage/async-storage'

interface Comment {
  id: string
  text: string
  postId: string
  createdAt: string
  pending?: boolean
}

function useAddComment(postId: string) {
  const queryClient = useQueryClient()

  return useMutation({
    mutationFn: async (text: string) => {
      const res = await fetch(`/api/posts/${postId}/comments`, {
        method: 'POST',
        headers: { 'Content-Type': 'application/json' },
        body: JSON.stringify({ text }),
      })
      return res.json()
    },

    // 楽観的更新 - コメントを即座に表示する
    onMutate: async (text) => {
      await queryClient.cancelQueries({ queryKey: ['comments', postId] })

      const previous = queryClient.getQueryData<Comment[]>(['comments', postId])

      const optimisticComment: Comment = {
        id: `temp-${Date.now()}`,
        text,
        postId,
        createdAt: new Date().toISOString(),
        pending: true, // UIに「送信中...」のインジケーターを表示する
      }

      queryClient.setQueryData<Comment[]>(
        ['comments', postId],
        (old) => [...(old ?? []), optimisticComment]
      )

      return { previous }
    },

    // 失敗したらロールバック
    onError: (err, text, context) => {
      if (context?.previous) {
        queryClient.setQueryData(['comments', postId], context.previous)
      }
    },

    // サーバーから実際のデータを取得するために再取得する
    onSettled: () => {
      queryClient.invalidateQueries({ queryKey: ['comments', postId] })
    },
  })
}

ミューテーションに networkMode: 'offlineFirst' を設定しておくと、回線が戻るまで mutationFn は一時停止します。楽観的更新でコメントは即座に画面に出て、実際のAPIコールは再接続時に飛びます。

もっと本格的なキューが必要な場合、たとえば順番どおりに再実行すべき保留変更が何十件もあるようなときは、ミューテーションキュー自体も永続化できます。

import { MutationCache } from '@tanstack/react-query'

// 保留中のミューテーションをAsyncStorageに保存する
const mutationCache = new MutationCache({
  onError: async (error, variables, context, mutation) => {
    // デバッグのために失敗したミューテーションを記録する
    const pending = JSON.parse(
      await AsyncStorage.getItem('pending_mutations') ?? '[]'
    )
    pending.push({
      key: mutation.options.mutationKey,
      variables,
      timestamp: Date.now(),
    })
    await AsyncStorage.setItem('pending_mutations', JSON.stringify(pending))
  },
})

ステップ5:回線が戻ったら整合させる
#

再接続まわりの仕事は、React Queryがほとんど自分でやってくれます。一時停止していたミューテーションは再開し、古くなったクエリは再取得されます。こちらの仕事は、React QueryのマネージャーをReact Nativeのイベントにつなぐことだけです。

import NetInfo from '@react-native-community/netinfo'
import { onlineManager, focusManager } from '@tanstack/react-query'
import { AppState } from 'react-native'

// React Queryにネットワーク状態の変化を伝える
onlineManager.setEventListener((setOnline) => {
  return NetInfo.addEventListener((state) => {
    setOnline(!!state.isConnected)
  })
})

// アプリがフォアグラウンドに戻ったら再取得する
focusManager.setEventListener((setFocused) => {
  const subscription = AppState.addEventListener('change', (status) => {
    setFocused(status === 'active')
  })
  return () => subscription.remove()
})

アプリを1時間バックグラウンドに置いてから戻ってくれば focusManager が再取得を走らせ、トンネルを抜けて電波が戻れば onlineManager が止まっていたものを再開してくれます。

ステップ6:UIでちゃんと伝える
#

何をするにしても、ネットワークエラーを黙って握りつぶすのだけはやめましょう。オフラインであること、どの変更が保留中なのかをユーザーに見せます。

import { useNetworkStore } from './stores/network'

function OfflineBanner() {
  const isOnline = useNetworkStore((s) => s.isOnline)

  if (isOnline) return null

  return (
    <View style={styles.banner}>
      <Text>You're offline. Changes will sync when you reconnect.</Text>
    </View>
  )
}

function CommentItem({ comment }: { comment: Comment }) {
  return (
    <View style={[styles.comment, comment.pending && styles.pending]}>
      <Text>{comment.text}</Text>
      {comment.pending && (
        <Text style={styles.pendingLabel}>Sending...</Text>
      )}
    </View>
  )
}

全体像
#

┌─────────────────────────────────────────────────┐
│                   Components                     │
│  useQuery() for reads    useMutation() for writes│
└──────────┬──────────────────────┬────────────────┘
           │                      │
     ┌─────▼──────┐        ┌─────▼──────┐
     │ React Query │        │ React Query │
     │   Cache     │        │  Mutation   │
     │ (in-memory) │        │   Queue     │
     └─────┬──────┘        └─────┬──────┘
           │                      │
     ┌─────▼──────────────────────▼──────┐
     │     AsyncStorage Persister         │
     │  (survives app restart)            │
     └─────┬──────────────────────┬──────┘
           │                      │
     ┌─────▼──────┐        ┌─────▼──────┐
     │   Zustand   │        │   Network  │
     │ (isOnline,  │◄───────│   NetInfo  │
     │  UI state)  │        │            │
     └────────────┘        └────────────┘
レイヤーツール役割
ネットワーク検知Zustand + NetInfoオンライン/オフラインを追跡し、UIのバナー表示を切り替える
データ取得React Queryオンライン時は取得し、オフライン時はキャッシュを返す
キャッシュの永続化React Query + AsyncStorage再起動時にキャッシュを復元する
オフライン中の書き込みReact Queryのミューテーションミューテーションをキューに積み、再接続時に再実行する
楽観的UIReact Query onMutate変更を即座に表示し、失敗したらロールバックする
フォーカス時の同期React Query focusManagerアプリがフォアグラウンドに戻ったら古いデータを再取得する

本物の同期エンジンが必要になるとき
#

ここまでの構成は、サーバーのデータが正でオフラインは一時的なもの、という前提で成り立っています。競合解決込みの本当のオフラインファースト(2台のデバイスが同じドキュメントをオフラインで編集するノートアプリのような世界)が必要なら、このスタックでは足りず、専用の同期エンジンの出番です。WatermelonDBはReact Native向けに作られていて、SQLiteの上で動き、競合解決のための同期プロトコルを備えています。RealmはAtlas Device Syncと組み合わせれば、MongoDB Atlas経由の自動競合解決付きの完全なオフラインファーストデータベースになります。PowerSyncは既存のPostgresバックエンドと連携できるSQLiteベースの同期レイヤー。完全に自分で制御したければ、Expo SQLiteに自作の同期ロジックという道もあります。

Zustand + React Query + AsyncStorageで、モバイルアプリの8割くらいはカバーできます。残りの2割、つまり共同編集やマルチデバイス同期のようなオフライン中心のワークフローには、専用の同期データベースが必要です。

どこに置くか迷ったら
#

私は迷ったとき、この順番で自問しています。

質問当てはまるなら
サーバー/APIから来るデータか?React Query
複数のコンポーネントで共有する、クライアントだけのUIステートか?Zustand
アプリの再起動後も残す必要があるか?AsyncStorage(必要に応じてZustandのpersistも)
機密情報(トークン、パスワード)か?expo-secure-store / react-native-keychain
クエリが必要な大きな構造化データか?SQLite / WatermelonDB / Realm
1つのコンポーネントだけで使う単純なフォーム入力か?useState

よくあるパターン
#

ステートツール理由
APIレスポンスのデータReact Queryキャッシュ、重複排除、再取得、ローディング状態
選択中のタブ / アクティブなフィルターZustandクライアントだけのデータで、複数のコンポーネントが参照する
認証トークンAsyncStorage + Zustand再起動後も残り、メモリ上で素早く読める
テーマ設定Zustand + persistミドルウェア再起動後も残すべきクライアントステート
ショッピングカートZustand + persistミドルウェアクライアント側のロジックが複雑で、再起動後も残すべき
フォーム入力useState1つのコンポーネントで完結し、共有の必要がない
APIから取得したユーザープロフィールReact Queryサーバーステートで、古くなりうる
オンボーディング完了フラグAsyncStorage永続化するだけの真偽値
オフライン用にキャッシュしたフィードReact Query + AsyncStorageサーバーから取得し、失敗したらキャッシュにフォールバック

プラットフォーム別のセットアップ
#

React Native (Android + iOS)
#

3つまとめて入れます。

npm install zustand @tanstack/react-query @react-native-async-storage/async-storage

機密データ用にセキュアストレージも追加しておきます。

npx expo install expo-secure-store
# or
npm install react-native-keychain

Expo
#

AsyncStorageはExpoでそのまま動きます。ネイティブリンクは不要です。

npx expo install @react-native-async-storage/async-storage

Web専用のReact
#

AsyncStorageは飛ばして、localStorageIndexedDB を直接使ってください。

npm install zustand @tanstack/react-query
# Optional for IndexedDB
npm install idb-keyval

Zustandのpersistミドルウェアは、Webではデフォルトで localStorage を使ってくれます。

persist(storeConfig, {
  name: 'my-store',
  // localStorage is the default on web  - no extra config needed
})

何度も見てきた失敗
#

APIデータをZustandに入れる。アクションの中に setUsers(apiResponse.users) があったら、一度手を止めてください。それはReact Queryの仕事で、その先に待っているのはキャッシュ無効化の下手な再発明です。

React Queryをクライアントステートに使う。queryFn がネットワークリクエストをしていないなら、道具を間違えています。

AsyncStorageをデータベース扱いする。1万件の配列をキーバリューストアにシリアライズし始めたら、素直にSQLiteなり本物のデータベースなりを使いましょう。

トークンを平文で置く。AsyncStorageはセキュアストレージではありません。認証トークン、APIキー、認証情報は expo-secure-store かプラットフォームのキーチェーンへ。

永続化を手作りする。マウント時にAsyncStorageを読んで、ステートが変わるたびに書き込んで……というコードを書いているなら、Zustandのpersistミドルウェアがハイドレーションもシリアライゼーションも含めて全部やってくれます。コードは減って、バグも減ります。


サーバーデータはReact Queryへ。クライアントステートはZustandへ。再起動を生き延びるべきものはAsyncStorageへ、機密データはセキュアストレージへ。

私が関わってきた中で最悪のアーキテクチャは、どれも巨大なストアひとつにすべてが流れ込むものでした。良いものには、サーバーステート・クライアントステート・永続化すべきものの間にはっきりした線が引いてあります。その線を早めに引いておくと、あとの全部が楽になります。